技術情報・技術コラム
IoT技術を活用した温度監視システムの構成と最新動向
IoT機器
ラズベリーパイ
1.はじめに 温度監視における一般的なシステム構成
温度制御は、以前からPIDコントローラを使い、対象物に対して到達希望温度(SV)の設定を行い、現在の温度(PV)をモニタしながらコントロールしフィードバック制御するという手法がありますが、このPIDコントローラを作業員が常時監視することは現実的ではありません。そのため、現在の温度(PV)を、例えば接続した記録計やデータロガーで保管する、またはRS−232CやLANを使って上位機器に接続しモニタリングするというような方法が、プラントの温度モニタリングでは以前からよく行われてきました。
昨今はIoTという言葉が定着してきたように、技術の進歩と機器コストの性能向上と低価格化のおかげで、以前より手軽にシステムの構築ができるようになりました。そのキーとなる技術は2つあります。
1つは『無線通信技術の向上』、もう1つは『コントローラの低価格化』です。
2.高速無線通信が低価格化したことで、遠隔監視の自由度が向上
1つ目の『無線通信技術の向上』とは、Wi-FiとLTE-Mです。Wi-Fiの規格も今や6まで上がり、1Gレベルの高速通信により大容量データ転送が可能となり、Wi-Fi機器のアクセスポイントを使えば屋内外を問わず上位機器にデータを送ることができるようになりました。固定された場所でWi-Fiのアクセスポイントを設置できれば、特に管理する温度監視対象が多いケースにおいては、通信費用がかからない点は大きなメリットとなります。なお温度制御は基本的に時定数が長いので、状況をモニタしながら通信で到達希望温度を変更していくことも可能です。
ただし、管理する温度監視対象が移動する、または固定されない場合は、当然ながらWi-Fi機器のアクセスポイントを設置するのが難しくなります。従ってこのような場合には、無線通信の選択肢としてはLTE-Mとなります。LTE-Mは携帯電話に使われているLTE回線を使って、送受信データが少ないことを条件に通信コストが安いのが特徴です。LTE回線を使えば設置場所などの制限もなく、移動体への設置も可能となります。
3.コントローラの選択次第で、コスト低減と開発スピード向上が両立可能
2つ目の『コントローラの低価格化』についてですが、プラントなどで使われる機器は信頼性が求められるため堅牢な作りとなる傾向にあるので、コストが高い、小型化ができないなどの問題があります。またこの制御に関するソフトウエア開発はこのメーカに依存するため、ユーザが自由にカスタマイズすることはハードルが高いのも事実です。
ところが昨今は半導体部品の低価格化や基板の多層化が進み、さらにラズベリーパイを代表とする、ユーザがシステム構築しやすい環境が整ってきました。このようなシングルボードコンピュータは価格も安く一般向けの開発ツールが整備されているので、専門家でなくてもソフトウエアの開発がスピーディに行うことができ、結果として開発費用も抑えられるようになりました。
もちろん、かなり複雑な重たいデータ処理がある場合はCPU+ FPGAなどを組み込んだカスタムのボードを起こす必要があります。この場合は、性能面では一番良いのですが少量の生産の場合開発コストが問題になります。つまり、要求される信頼性・情報処理の複雑さ・開発スピード・許容されるコストなどを総合的に勘案して構成を検討していくことで、バランスのよいシステムを構築することが可能となります。場合によっては、割り切りってシステム構築するという考え方も必要です。
最後に、簡単に今回の例でのシステム構築の一例を紹介します。
詳細は図に示す通りですが、上述の技術を用いれば、一見大掛かりなシステム開発でも、かなりハードウエアのコストと開発納期を抑えることができます。温度のモニタや制御を今までより踏み込んだ形で実施することで、今までにないデータの集積ができ、分析することで新たな解決策や課題が見出せるものと思います。